2013/03/20

(続) 天使の吹笛


分蜂前夜に巣箱から聞こえてくるという“天使の吹笛”。別れを惜しんで、ミツバチ達が夜を徹して開く別れの宴で奏でられる竹笛の音色だ。

その光景を語る吉田翁の名文に魅了され、天使の吹笛を録音しようと思い立ってから今年で4年目の分蜂シーズンを向かえる。これまで、分蜂前夜のレコーディングに成功したのは2回だけ。この春はもう少しデーターを集めようと考えていた矢先にAPiS UKの記事を目にした。

巣箱から聞こえる翅音を解析し、ミツバチの分蜂日時を予測する英国ノッティンガムトレント大学の研究を伝えたもの。早速、研究論文を購入して読んでみた。観察ポイントなどで多少の違いはあるが、ミツバチの翅音と分蜂決行日時に深い関連性があることは吉田翁の慧眼どおりだった。

実のところ、実験養蜂新書で"天使の吹笛"を知った時は半信半疑だった。だから、自分で確認しようと、巣箱内の翅音の録音を試みたのがことの始まり。録音できた2回の記録を丹念に聴いてみたがそれらしい音色を確認することはできなかった。

論文から推測すると、"音全体"に変化が起きるのではなく、ざわめきの中にある特定の音色が埋め込まれており、それを吉田翁は“天使の吹笛”と呼んだようだ。そして、その"埋め込まれた音"を聴き分ける能力(カクテルパーティー効果と呼ぶそうだ)は、人により差異があることも知った。

"天使の吹笛"の背景にあるそんな複雑な事情や、ノッティンガムトレント大学での本格的な研究を知ったいまとなっては、今更自分でマイクロテープレコーダーでの録音でもないだろう。ましてや、自分に吉田翁のような音感があるとも思えない。ということで、このプロジェクトは中止にし、今後はノッティンガムトレント大学の研究成果に教えを乞うことにした方が良さそうだ。

それにしても、憧れの天使が科学のメスで切り刻まれてしまうことには一抹の寂しさを感じなくもない。

注記:
  • 上写真のグラフは、同大学の論文、"Identification of the honey bee swarming process by analysing the time course of hive vibrations"論文からの借用。下右グラフは、David A. CushmanのWebサイトから借用したApidictorの開発者E.F.Woodsの論文から拝借
  •  既に1964年にApidictorなる測定器が開発されたことも今回初めて知った。